訴訟・紛争の基礎知識
代表取締役の暴走への対応方法(職務執行停止の仮処分を中心に)
1.代表取締役が暴走、独断専横した場合にどう対応するべきか
(1)取締役会および株主総会による対応
(2)訴訟による対応
2.職務執行停止の仮処分の概要
そこで、少数株主としては、代表取締役に対し訴訟を提起し確定判決を得るまでの間に、当該取締役の職務執行停止の仮処分(民事保全法23条2項)を申立てることが考えられます。職務執行停止の仮処分は、対象とされる取締役の職務執行を停止する効果を有するので、申立てが認められれば、当該取締役は職務執行ができません。仮処分に違反して職務執行行為を行ったとしても、当該行為は無効となります。したがって、当該仮処分の申立ては、会社への損害を防ぐために、非常に有効な手段といえます。
また、当事者の申立てに基づき裁判所により仮処分が発令されれば、本案訴訟の提起前であっても、仮処分によって当該取締役の職務執行を停止することは可能とされています。
3.職務執行停止の仮処分の発令要件
職務執行停止の仮処分は、民事保全法23条2項の仮の地位を定める仮処分の一種ですので、被保全権利の存在(仮処分により保全する適切な本案訴訟の存在)および保全の必要性が発令要件となります(民事保全法23条2項)。
(1)被保全権利の存在
(2)保全の必要性
4.職務執行停止の仮処分の効力および執行
職務執行停止の仮処分が発令されると、当事者に決定正本が送達されます(民事保全法17条)。仮処分の効力発生は、債権者(申立者)に送達がなされた時です(民事保全法7条、同43条3項、民事訴訟法119条)。また仮処分命令が発令された旨を登記する必要があります(会社法917条1号)。
仮処分の効力が発生すると、対象とされた取締役は職務の全体につき執行が停止されます。仮処分の効力は第三者にも及び(民事保全法56条)、仮処分に違反してなされた行為は第三者との間でも無効となります。仮処分が後に取り消されても、職務執行停止中になされた行為が、取消し後に遡及的に有効とはなりません(最判昭和39年5月21日、民集18巻4号608頁)
仮処分の効力消滅時期については、債権者勝訴の本案判決がなされた場合、その確定をもって消滅しますが、債権者敗訴の本案判決がなされた場合、事情変更による保全の取消しがなされるまで効力が持続するという見解と、効力自体は本案判決の確定によって消滅するという見解が対立しています。
5.職務代行者選任の仮処分の概要
職務執行停止の仮処分が発令されると、職務執行を行う者が不在となるため、会社経営に支障が生じることになります。そこで、職務執行停止の仮処分を受けた代表取締役の代わりに、職務執行を行う者を選任するのが職務代行者選任の仮処分です(民事保全法23条2項)。実務では、発令前に裁判所が職務代行者の候補者(通常は弁護士)に就任を打診した上で承諾を得て、職務執行停止の仮処分と職務代行者選任の仮処分を併せて発令しています。
当該仮処分によって、当事者と利害関係のない弁護士が職務代行者として選任され、その弁護士が本案訴訟での解決がなされるまで、中立的な立場から会社の業務の必要最低限のことを行い、現状維持を図ることを任務として会社財産の管理を行います。
職務代行者の権限は、仮処分命令に別段の定めのある場合を除き、会社の常務(会社として日常行われるべき業務)に限定されています(会社法352条1項)。代表取締役の常務とは、仕入れ、生産、販売、財務に関して通常行われるべき行為を指します
代行者の地位は、仮処分の効力が消滅する時に失われ、代行者の在任中に職務失効停止中の取締役の後任が選任されても、当該選任によっては代行者の地位は失効しません(最判昭和45年11月6日、民集24巻12号1744頁)。また、職務代行者がなした行為は、後に仮処分が取り消された場合にも、無効とはなりません(大判昭和6年2月3日、民集10巻39頁)。