投資ファンドの基礎知識

平成27年金融商品取引法改正がVCに与える影響(その1)

1. はじめに

平成27年5月27日、適格機関投資家等特例業務を行う業者に関する金融商品取引法の一部を改正する法律(以下「改正金商法」といいます。)が国会(参議院)において可決成立し、同年6月3日に公布されました(平成28年3月1日から施行)。
 
改正金商法は、それまで規制が緩かった適格機関投資家等特例業務(いわゆる「プロ向けファンド」)が、一部業者に悪用され、投資家が被害を受けるケースがあったことから、プロ向けファンドに対する規制を強化するものです。
平成27年11月20日に改正金商法に係る政令・内閣府令案が公表され、改正金商法の全体像が明らかになるとともに、施行日も近づいてきました。そこで、特に改正金商法による影響を強く受ける、個人投資家から出資を受けるベンチャーキャピタル(VC)、ベンチャー投資ファンドを念頭に置きながら、改正金商法の内容を、複数回にわたって解説したいと思います。

2. 改正金商法の全体像

簡単に言うと、これまで適格機関投資家等特例業務(プロ向けファンド)については、1名以上の適格機関投資家(「プロ」)がファンドに投資していれば、簡単な届出をするだけで、49名までなら誰でも(「一般投資家」)、投資させることができました。
そのため、ファンド運営業者が、形ばかりの適格機関投資家に1名だけ投資させ(ひどい例では適格機関投資家が実在しないこともありました。)、49名の一般投資家の枠で、未公開株投資は将来の株式上場で確実に儲かる等の甘言を弄し、十分な投資判断能力を有しない高齢者等から、事実上投資資金をだまし取るような事件も生じていました。改正金商法は、このような事件を未然に防ぐことを目的としています。
本稿では、まず改正金商法の全体像の明らかにします。

(1) プロ向けファンドに投資できる投資家の要件の限定
これまで、ごく特殊な例外を除き、49名枠(一般投資家枠)については、誰でも投資することができました。これを、①国、②地方公共団体、③ファンド運営業者の役職員その他の関係者、④上場企業、⑤資本金又は純資産5000万円以上の法人、⑥投資性資産1億円以上かつ投資経験1年以上の個人、等に限定することとしました。
その上で、法令上、「一般投資家」という定義語をやめ、「特例業務対象投資家」という定義語が使用されることになりました。

なお、一定の要件を満たすファンドについては、内閣府令で定める「投資に関する知識及び経験を有する者」も特例業務対象投資家に該当することとし、これらの者からの投資も特例として認めています(「ベンチャー・ファンド特例」)。

投資家の要件の中には極めて複雑なものもあるため、投資家が当該要件を充足しているかについてファンド運営業者は慎重に確認・記録する必要があります。金融庁の監督指針においても、その確認・記録体制に留意して検査すべきことが明記されています。
(2) 投資者保護に支障のあるプロ向けファンドの特例除外
ファンドに投資する適格機関投資家が、借入金を控除した運用資金が5億円未満の投資事業有限責任組合のみである場合、等については、プロによるファンド運営のモニタリング(監視)が適切に行われない恐れがあることから、プロ向けファンドの特例が認められないことになりました。
(3) 届出事項及び添付書類の追加
ファンド運営業者の実態の把握を容易にするため、業務を行う営業所・事務所の所在地、等の届出が必要になりました。
改正金商法施行前に届出を行っている業者についても、追加での届出・添付書類の提出が求められています。
(4) プロ向けファンドに係る契約の契約書の写しの金融庁への提出
プロ向けファンドのうち、投資者の保護を図ることが特に必要なものを行う場合(上記(1)の49名枠に関する「ベンチャー・ファンド特例」を利用する場合)には、組合契約等の契約書の写しを内閣総理大臣(金融庁)に提出しなければならないことになりました。
(5) プロ向けファンド運営業者に対する行為規制のみなし適用
プロ向けファンド運営業者を、金融商品取引業者(証券会社、等)とみなし、①適合性原則の遵守義務、②広告規制、③契約締結前書面の交付義務、④契約締結時書面の交付義務、等が課されることとなりました。
(6) プロ向けファンド運営業者の情報開示
プロ向けファンド運営業者の業務の適正化・情報開示を行うため、①帳簿書類の作成・保存義務、②事業報告書の作成・内閣総理大臣(金融庁)への提出義務、③事業報告書に係る説明書類の備置・公衆縦覧・インターネット公表義務、等が課されることとなりました。
(7) 行政処分の導入
内閣総理大臣(金融庁)は、プロ向けファンド運営業者に対して、業務改善命令、業務停止命令、業務廃止命令を行うことができることとなりました。
(8) 金融検査制度の導入
内閣総理大臣(金融庁)は、公益又は投資者保護のために必要かつ適当であると認めるときは、プロ向けファンド運営業者等に対して、業務に関する報告・資料の提出を命令すること、立ち入り検査を行うことができることとなりました。
(9) 罰則の強化
適格機関投資家等特例業務の届出をしなかった者、虚偽の届出をした者、等に対する罰則が強化されました。 

3. 小括

上記の改正金商法の施行(平成28年3月1日)により、プロ向けファンド運営業者、特に個人投資家から出資を募るベンチャーキャピタル(VC)及びベンチャー投資ファンドの運営実務は重大な影響を受け、法令遵守態勢の見直し・強化が必要になると思われます。
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