労働問題等の基礎知識
タレント・アーティストのマネジメント契約締結上の留意点
マネジメント契約とは
もしあなたが街頭でスカウトマンに声をかけられて、俳優、モデル、歌手(音楽アーティスト)といったいわゆるタレント(芸能人)にならないかという勧誘を受けたとき、あなたがタレント業界に興味があればその話に耳を傾けることになるでしょう。話を聴く内に興味が増し、いざ契約という場面になるとスカウトマンはあなたに契約書を提示してきます。
また、芸能事務所が主催するオーディションでグランプリを受賞したり、その他の特別賞などを受賞した後に、芸能事務所に所属する場合にも契約書を締結します。
これらの契約書に記載されている内容が『マネジメント契約』です。
契約書の名前は、タレントマネジメント契約書、芸能マネジメント契約書、専属マネジメント契約書、専属契約書、芸能事務所所属契約書、芸能契約書、タレント契約書、専属モデル契約書、営業委託契約書、業務委託契約書など様々です。契約の相手方はマネジメント会社(芸能事務所、プロダクション)です。
マネジメント業務と一口に言っても業務の内容は広範にわたりますが、その本質的な要素は、独占的なマネジメント権限の付与、すなわち、業務のスケジュール管理をマネジメント会社に任せること(宣伝活動・営業活動により出演機会を獲得し、依頼に応じて所属タレントのスケジュールを調整すること)にあると言えます。
最近では、現役引退後にタレントとして活躍する元スポーツ選手だけではなく、現役のスポーツ選手も、CMやイベントへのゲスト出演の機会を獲得したり、円滑なセカンド・キャリアへの移行を期待して、マネジメント会社とマネジメント契約を締結し始めています。
マネジメント契約は、あなたがタレントとして活動していく上で必要不可欠な契約である一方、業界に一部残る「古い体質」等に起因する相応のリスクを含むものです。労働基準法に基づく労働時間や賃金の規制が及ばず、極めて低い報酬で、健康を損なうほど長時間の稼働を強いられたり、やりたくない仕事を強制されることにもなりかねません。
1) まだタレント活動を開始していない段階では、①自分の大好きな歌やダンスを仕事にできる、②テレビに出演できる、等の期待、「夢を追いかける」ことだけで舞い上がってしまう、
2) お金を稼ぐ前に必要となるレッスン料や住居費、生活費の一部をマネジメント会社が負担(貸付)してくれることを過大に感謝してしまう、
3) 契約時に未成年である場合、遊びや部活、アルバイトの延長のような感覚で、お小遣いやアルバイト代程度のお金がもらえるだけも十分と考えてしまう、
4) 人気が出て売れ始めた後の、仕事の売上額と、自分の手元に入る収入のバランスにまで、考えが及ばない、
等の理由により、マネジメント契約を最初に締結する時点では、自分の稼働条件、報酬、解除権、違約金の定め、等について十分に検討しない事例が多いようです。
2022年4月の改正民法施行により、18歳になると自分が締結した契約について、未成年を理由に取り消すことができなくなり、文言どおりの責任を問われる危険が高くなります。
同級生が社会人として活躍し、安定した収入を得はじめる5年先、10年先のこと、有名になることのデメリット、写真や動画がインターネット上で、半永久的に公開され続ける危険性もしっかりと考え、マネジメント契約の内容を検討するようにしましょう。
契約締結上の留意点
1. 「マネジメント業務」の内容について
マネジメント契約は、所属タレントであるあなたが芸能活動を行う際のマネジメント業務(出演機会の獲得を含むスケジュール管理、所属タレントの著作権、著作隣接権、肖像権等の管理、芸能活動の主催者側との報酬の交渉、受領、管理等、あなたの芸能活動にかかわる一切のマネジメント業務を包括的に含みます。)のマネジメント権限をマネジメント会社に委託します。
広範囲にわたる業務を包括して委託する条項ですが、この条項の内容を可能な限り特定させるようにすべきです。条項が抽象的な内容であればあるほどマネジメント会社はマネジメント業務という抽象的な文言で所属タレントであるあなたの活動を拘束・制約する余地がでてくるからです。少なくとも上記の例で挙げた程度の内容は明記させ、具体的に記載のない行為についてまでマネジメント会社からの影響力が及ばないように予防線を張っておくことが必要になります。
また、あなたが在学中で卒業を希望するのであれば、一定の範囲で「学業を優先できること」を契約に明記すべきです。ミュージシャンや俳優、司会として息の長い活躍をするタレントがいる一方、若い頃に人気が出たとしても、数年で人気が陰り、以降、別の道で仕事をしなければならないこともあります。4人のメンバー全員が、音楽活動と歯科大学卒業・歯科医師免許取得を両立したミュージシャンもいます。セカンド・キャリアについてもしっかり考えましょう。
さらに、マネジメント会社との交渉力の差から難しいかもしれませんが、あなたの「仕事を選ぶ権利」(マネジメント会社が取ってきた、映画、テレビ番組、CM、DVD等の仕事の内容、その中でのあなたの役割を、あなたが予め検討した上で、嫌なら仕事を拒否する権利)を契約に規定できることが望ましいといえます。
また、アダルトビデオへの出演やヌードになることがNGであれば、その旨を契約に明記すべきです。「成人向けコンテンツへの出演」、「一切の映画、ドラマ、DVDへの出演」が契約内容になっていることによって、アダルトビデオ出演を強制される危険があります。
2. 「契約期間」について
多くの場合、1年から3年程度の契約期間が締結されます。ここで注意すべきは契約期間が10年とされているような長期の契約の場合です。契約期間が10年と定められている場合、その期間内に例えばあなたがタレントとして大成し、マネジメント会社の収益に大きく貢献できるような人材となった場合でも、当初契約で定めたとおりの固定給しか得られないという事態が考えられます。労働基準法は3年を超える契約期間を定めることを原則として禁止しています(労働基準法14条1項)。この制限を超える労働契約は、制限を超える部分は無効となり(労働基準法13条)、3年目以降は期間を定めずに、従前と同様の労働契約を継続しているものと推定されることになります(もっとも、タレントが労働基準法の保護を受ける「労働者」にあたるか否かはしばしば裁判例でも争われる論点ですが、本稿ではこの点についての詳述を割愛します)。タレント業のような流動性のある仕事ですから、一定期間ごとに契約内容を見直すことは双方にとって必要です。3年を超えるような期間が提示されている場合には、指摘して3年以内とするように変更させるべきです。
但し、契約期間そのものが短期であったとしても、後述のリスクマネーの項目に記載したように、損害賠償等を盾に契約更新が強制されることもあるので、注意が必要です。
契約期間の定めは、タレントがある程度有名になり、実績が出てきた後、独立や事務所の移籍を検討する際に問題となり、トラブルの原因となります。タレントの独立・移籍を巡る契約紛争は、しばしばメディアでも大きく取り上げ、訴訟に発展することもあります。契約の途中解約の場合はもちろん、契約期間の満了に伴う独立に対しても、マネジメント会社が「仕事を干す」という圧力をかける根深い問題があります(ようやく2019年11月、マネジメント会社を退所したタレントの芸能活動を一定期間禁止する合意等が、独占禁止法が禁止する「優越的地位の濫用」に該当するとの見解を公正取引委員会が表明しました。)。後述のマネジメント会社による「リスクマネー投資の回収」にも配慮し、円満独立や報酬の変更について交渉することになります。
3.「報酬」について
所属タレントの報酬は、芸能活動のイベント主催者側からマネジメント会社に支払われ、ここからマネジメント会社がマネジメント料を控除して所属タレントに支払う形になります。
支払いの形態としては以下の3形態が考えられます。
4. その他の注意すべき契約条項
*契約の相手方当事者(芸能事務所・マネジメント会社)
契約の相手方当事者は 芸能事務所 (マネジメント会社、プロダクション)です。有名なところでは、以下のような事務所があります。
所属タレントの一覧を分析すると、芸能事務所の新人発掘・育成能力、営業力、トレンド、栄枯盛衰が一定程度把握できます。
アクセルミュージックエンターテイメント (吉川晃司 〈代表取締役〉、等)
アジア・ビジネス・パートナーズ (貫地谷しほり、近野成美、等)
アソビシステム (中田ヤスタカ、きゃりーぱみゅぱみゅ、等)
アノレ (浅野忠信、三浦貴大、等)
アミューズ (福山雅治、ディーン・フジオカ、Perfume、賀来賢人、野村周平、IVE、等)
アルファエージェンシー(豊川悦司、柄本佑、泉澤祐希、伊藤沙莉、等)
イー・コンセプト (谷原章介、千葉雄大、等)
インセント (三浦奈保子、山本美月、等)
エイベックス・マネジメント (浜崎あゆみ、大塚愛、AAA、等)
LDH (EXILE、三代目J Soul Brothers from EXILE TRIBE、等)
エレメンツ (小西真奈美、KICK THE CAN CREW、等)
太田プロダクション (前田敦子、大島優子、指原莉乃、等)
オスカープロモーション (上戸彩、武井咲、松尾悠花、本田真凛、本田望結)
キューブ (藤木直人、中越典子、大倉孝二、白洲迅、松下洸平、等)
コンテンツ3(今田美桜、目代結菜、等)
クォータートーン (西島秀俊、伊藤敦史、等)
ケイダッシュ (高橋克則、南野陽子、永井大、等)
研音 (反町隆史、天海祐希、菅野美穂、山崎育三郎、榮倉奈々、志田未来、杉咲花、等)
サニーサイドアップ (中田英寿、前園真聖、村主章枝、等)
サムデイ (藤原紀香、小倉隆史、加藤あい、篠田麻里子、等)
サンミュージックプロダクション (安達祐実、ベッキー、等)
ジェイアイプロモーション (松下奈緒、等)
ジェイピールーム (石川梨華、熊井友理奈、等)
JYPエンターテインメント(2PM、TWICE、NiziU、NMIXX、等)
ジャニーズ事務所 (東山紀之、木村拓哉、岡田准一、松本潤、生田斗真、Snow Man、等)
ジョビィキッズプロダクション (芦田愛菜、鈴木梨央、寺田心、等)
スウィートパワー (黒木メイサ、堀北真希、知英、桜庭ななみ、南沢奈央、桐谷美玲、等)
スターダストプロモーション (常盤貴子、岡田将生、北川景子、仲野太賀、北村匠、竹下優名)
セブンス・アヴェニュー (松嶋奈々子、伊藤歩、等)
セント・フォース (皆藤愛子、潮田玲子、新井恵理那、等)
SOURCE MUSIC(LE SSERAFIM)
ソニー・ミュージックアーティスツ (PUFFY、西野カナ、武田梨奈、土屋太鳳、黒島結菜)
田辺エージェンシー (永作博美、堺雅人、RIP SLYME、等)
テアトルアカデミー (鈴木福、谷花音、小林星蘭、等)
ディスカバリー・ネクスト(橋本環奈、井手上漠、等)
ディーゼルコーポレーション (西川貴教 〈代表取締役〉)
TOBE(滝沢秀明 〈代表取締役〉)
東宝芸能 (沢口靖子、水野真紀、高嶋政宏、高嶋政伸、長澤まさみ、浜辺美波、等)
トップコート (木村佳乃、佐々木希、松坂桃李、菅田将暉、等)
トライストーン・エンタテイメント (小栗旬、綾野剛、木村文乃、坂口健太郎、赤楚衛二、等)
鈍牛倶楽部 (オダギリジョー、田中哲司、河合優実、等)
バーニングプロダクション (加藤雅也、小池鉄平、ウェンツ瑛士、等)
パール (蛯原友里、押切もえ、等)
パパドゥ (江口洋介、永山瑛太、黒木華、工藤阿須加、永山絢斗、等)
BIGHIT MUSIC (BTS、等)
ピーチ (平祐奈、等)
ヒラタオフィス (宮崎あおい、多部未華子、松岡茉優、等)
風鈴舎 (石田ゆり子〈社長〉、石田ひかり)
フォスタープラス (勝地涼、北乃きい、広瀬すず、等)
プラチナムプロダクション (中村アン、トリンドル玲奈、おのののか、菜々緒、等)
フラーム (広末涼子、吉瀬美智子、戸田恵梨香、徳永えり、有村架純、唐田えりか、等)
プロダクション尾木 (仲間由紀恵、等)
ホットロード (桐谷健太、等)
ホリ・エージェンシー (向井理、波瑠、等)
ホリプロ (妻夫木聡、鈴木亮平、綾瀬はるか、石原さとみ、藤田菜七子、竹内涼真、等)
ユニバーサルミュージックアーティスツ (眞栄田郷敦、等)
ユマニテ (藤井美菜、安藤サクラ、門脇麦、岸井ゆきの、三浦透子、蒔田彩珠、等)
ライジングプロダクション (国仲涼子、平愛梨、比嘉愛未、西内まりや、等)
レプロエンタテインメント (高田延彦、RENA、宮沢氷魚、等)
ワタナベエンターテインメント (吉田栄作、原田泰三、中川翔子、山田裕貴、等)
http://geinoupro.com/
「THE 芸能事務所」という上記のURLページも参考にしてください。